マタイの「憐れみたまえ」について。

名曲なのだろうけれども、私の好みじゃない。
バッハのほかの曲は大好きなのだけれども……。
あの曲、ペテロの置かれた状況に比して、甘ったるすぎる気がするので。

私なら、裏切った相手がごく普通の人間であっても、裏切った私自身が許せない。
自分を許そうとしても、昼となく夜となく自責に取り憑かれて、逃げられない。
時の経過が癒してくれるまで、自責の中にとどまるしかない。
まして私がもしペテロだったら、どんなに苦しいだろう。
その苦しさに比して、バッハのあの曲は、感傷的、メロドラマ的でさえある。
なにか自己憐憫じみたものを感じる。罪深いおのれに、酔っているように聴こえる。
甘い涙。そこに安易な「癒し系」の気配さえ感じる。

もし、あの曲がもっとむごたらしい、聴き手の心を斬りつけるような曲だったら、
私ももっと自然に共感できただろうし、
その残酷な痛みに耐えてこそ、次のコラールにも素直に感動することができて、
私のような者もいささかなりと救われたのではないかと思う。