記憶が定かではないのですが、デジタル伝送技術の恩恵を最初に受けたのは
アポロ宇宙船との交信だったと思います。従来ノイズの混入で聞き取りにく
かった音声をクリアにするために使われたのですね。ですから、最初から利
便性が先行していた技術なのだといえます。その後、DENONがオープンのVTR
を利用してデジタル信号を記録/再生できるシステムを作り(44.1kという数字
はその名残です)、CDフォーマットの基礎ができあがったわけです。当時、騒
がれたデジタルのメリットというのは、ノイズが少ない、コピーしても劣化
が少ない、という点だけでした。しかし、みんなLPの扱いにくさには辟易し
ていたので、ノイズがない=クリアな音、という短絡的な受け止め方をしてし
まったのですね。けれどもわりと早くから微少入力時の再現性の悪さは指摘
されていました。アナログ録音では、入力が下がれば下がるほどSN比は落ち
ますが歪率は向上するので、クラシック録音でのピアニッシモで差がでてし
まうのです。そのあたりは基本的に変わっていません。つまりデジタルは音
がいいから普及したのではなく、便利だからにすぎないわけです。もちろん
音質向上のためのいろいろな努力はありますが。仕事でアナログを回すこと
はすっかりなくなりましたが、巨匠の超名演をデジタルで録るということは、
美しい風景をデジカメだけで撮るような気分で、なんともいえません。私と
しては本当の技術の進歩は「もっと扱いやすいアナログ」という方向である
できだったのではないかと思っています。