もう時効だろうから書こう。

小林研一郎が、まだ海外からほとんどお声がかからなかった頃のこと。
あるアマチュア合唱団がフォーレのレクイエムをオケ付きでやるというので、
人数不足の埋め合わせで、テナーパートで練習に参加したことがある。
練習に行ってみると、ちょうど本番の指揮者が来る日だとのことで
みんなとても緊張した様子。
そこに現われたのが、コバケンだった。
当り障りのないあいさつの後、ごく普通に練習が進んだが、
何が気に入らなかったのか、いきなりある部分をひたすら繰り返し
歌うだけの練習になってしまった。
その間 指揮者は、不機嫌そうに「もう一度」と言うだけ。
たまりかねたソプラノリーダーのおばちゃんが、
「先生、私達のどこが悪いのか、ちゃんと言って下さい」
と指揮者に言ってしまった。

   ピ  キ  ッ  !

その時、興奮した指揮者が何と言ったか、今となっては憶えていない。
あたふたと指揮者の後を追う事務方。立ち尽くす団員。
結局練習はそのままお開き。自分はもう二度とあんなイヤな思いは
したくなかったから、次の練習以降 参加しなかった。
その時の本番が無事行われたかどうかは定かではない。

この人が、「炎のコバケン」として、宇野功芳の絶賛の後押しで
脚光を浴び始めたのは、それから数年後のことだ。