(続き)誤解を恐れずに極論を言うなら「かくも矮小な宗教の為に、かくも偉大な音楽を作った」という点において、
J.S.バッハは空前絶後の天才であると言うことが出来ると思います。
無論、信徒人口はキリスト教が最大ですが、少なくともその思想的・哲学的内容で比べるなら、
仏教の方が遥かに広大かつ深遠であって、キリスト教など足元にも及びません。
――その場合、バッハの真の偉大さは新教と旧教の違いは言うまでもなく、
あらゆる宗教の違いを越えて、人間の良心に直接迫って来る音楽を作り得た点にあるのです。
作曲家多しといえど、私の知る限りでは、そうした音楽を作り得た作曲家は他にいません。
例えば、王様が作ったくだらないメロディーを料理して立派な音楽に変えてしまうのがバッハなのであり、
その意味で、天才にとっては作曲の切っ掛けはキリスト教でも何でも良かったのだと言えるでしょう。
――ですから、キリスト教の信徒、またはキリスト教にかぶれた者が、
「私はキリスト様の教えには決してそむきたくない」と言って、
敢えて少年達のイモコーラス付きカンタータを聞きたいと言うなら、私にはそれを引き止める気は毛頭ありません。
どうぞ自由にというまでですが……但し、彼らにはカンタータよりも前述の安物の賛美歌の方がお似合いでしょう。