そして男の手はゆるやかに彼女の鍵盤をアルペジオする。
時にエスプレッシーヴォ、そしてややもするとアパッショナートな
そのタッチに、思わず女の口からは切れ切れなファルセットのアリアが
こぼれる。
「ああ、そこもっとフェルマータ・・・」
「ふふふ、みろよ俺のトロンボーン、もうこんなにグリッサンドしてるぜ」
やがて男はかすかにトレモロしているそれを、静かに彼女のマウスピースに
あてがう。彼女のダブルリードが震えた。
今まさに、めくるめくコンチェルトがトゥッティを迎えようと
している。