ピアニストには、ピアニズムの点だけで言えば専門家にとっては明白なランクと
いうものがあります。まあ、技術的な面での身分みたいなもんでしょうね。
ポリーニの身分は最高ランク、バラモンですな。アシュケナージはワンランク下
のクシャトリア。これは厳然としたものです。その前提の上で、演奏のタガの緩み
だのなんだのの議論はできるわけで、だからと言って身分を越えることは出来ません。

同じくバラモンであったグルダは公然とクシャトリアのブレンデルをバカにしていましたが、
身分が違うからには仕方ありません。いくら演奏の完成度が逆転しても、身分は超えられない
のですから。また、いくら身を持ち崩してもアルゲリチはハスキル、ラローチャと共に
歴代女性で3人しか居ないバラモンであり、その価値は変わらないのです。

しかし20世紀後半に君臨したルビンシュタイン、ホロヴィッツ、ギレリス、グールド、
ミケランジェリ、リヒテルといったバラモンが次々と他界し、今では、老いさらばえ
交通事故の後遺症で精彩を欠くポリーニ、すっかり身を持ち崩したアルゲリチ、それに
引退間近のラローチャの3人だけという寂しい状況です。そこで、本来クシャトリアの身分
ながらバラモンのように振舞いたがるツィンマーマンやペライアにバラモンの身分を与え
ようとする動きも見られます。でもこれは間違っています。すでに、こうしたカースト性
自体が旧態然としたものなのですから。これからは、さらに身分の低いビアイシャであり
ながら舌先三寸で錚々たる録音歴をモノにしたバレンボイムが先鞭をつけたような、新し
い時代が始まるのです。一抹の寂しさと共に見守りたいと思います。