クセナキスが、縦軸=音高、横軸=時間、のグラフ用紙上に、樹形曲線みたいなも
のを書いてみて、その枝分かれや交錯の面白さによって曲を作っていることは有名
ですよね。要するに、クセナキスが書く「声部」というのは、メロディというより
は、時空間に広がる音の束の一つ一つを指していると考えてみて下さい。

で、そういう束は、曲中でいくつにも枝分かれ・交錯を繰返しますよね。だから、
原則1声部1段で書いていても、最初は、スコアに声部の音高順に上から書かれ
ていたが、何回かの交錯の後、途中でスコアの段の順番が音の高さと対応しなく
なる、という場合があるわけです。すると、ピアニストは、譜面に書かれた音達
の高さを、大まかに把握して指の割り当てを決めていくわけ(同じ声部は、常に
同じ指で弾かなくてはならない、ということはありません。ラフマニノフのよう
に蛇のように自在に曲がりくねる指を持っているなら別ですけど)ですから、そ
ういう書き方をされると何が何やらわからなくなるわけです(2段や3段ならと
もかく、敵は10段譜の現代曲ですし)。

だから、書き換えをして、各瞬間における音の高さの順がどうなっているのかを
把握し、それに対応する指遣いを考え出す必要があるのです。それをせずに弾く
のなら、クセナキスが書いた音符の半分も押さえられないのではないかと危惧さ
れます。練習の効率も凄く落ちそうですし。ちなみに、大井氏が7月のイベント
で語ったところによると、氏は「シナファイ」を練習していく過程で、3回も譜
面のリダクションを行ったそうです。