ベートーヴェンは第9交響曲の4楽章に至って、ついに今まで求めて止まなかった
貴いものを見いだしたのだ。
三番や5番は言うに及ばず、これまでの自信に溢れ人々を率いてきた英雄はもはや
ここにはいない。ここにいるのは手の届かぬはるかな高みを目指し、そのたびに打
ちのめされ、叩きつぶされ、絶望し、しかしそれでもそれを求め歩き続けた、ただ
それだけの人間がいる。
そう、ただそれだけ。しかし、なんという偉大な歩みだったのだろう。
その領域に足を踏み入れる彼の憧れと恐れ。しかし、それはベートーヴェンに語り
かける。
「なにも恐れることはないんだよ」
ベートーヴェンはもはや英雄ではない。
神々の列に座することを赦された存在となったのだ。