ブラームスは、ベートーヴェンやワーグナーのように押しが強くないし、
ピアノの名人であったにもかかわらず、ショパンやシューマンやリストのように、
一聴して聴き手を捕らえるインパクトのある曲は敢えて作らなかった。
誰にも劣らぬ天才ではあったが、あまりに誠実で自己批判が強い性格のため、
赤裸々に自己を表出するロマン派の潮流に乗ることが出来なかったのであろう。

そのブラームスが晩年に、最も愛する楽器、ピアノに託して自らの心の内の
全てを語ったのが、作品116から119に至る、計20曲の小品だった。
ここには、孤独に震えながらも自らを奮い立たせ、迷いながらも自己を肯定し、
来し方のつれづれに喜びと悲しみと怒りと諦めを見出す、1人の老人の姿がある。
普通であれば、そんな老人のたわ言など聞いてはいられないが、この、全てが
昇華され切った音楽においては、美以外のものは存在しない。

これこそがロマン主義の理想ではあるまいか。