メロスは激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の王を除かなければならぬと決意した。
メロスには政治がわからぬ。
メロスは、村の牧人である。笛を吹き、羊と遊んで暮して来た。
けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
きょう未明メロスは村を出発し、野を越え山越え、
十里はなれた此(こ)のシラクスの市にやって来た。
メロスには父も、母も無い。女房も無い。