この映画は戦争映画じゃなくてさまざまな困難を乗り越えて「夫婦が形成されていく」物語だと思っている。

周作さんは優しくて真面目で仕事も出来て、何よりすずさんのことを大切にしていて、おまけにイケメン。
普通に考えたら理想の夫だと思うのだが、人間の感情はそんな単純じゃあない。
すずさんは子供の頃から秘かに想いを寄せている、哲という存在の為になかなか周作への想いが煮え切らない。
決して周作に不満があるわけではないが、それがかえってすずさんを迷わせることになる。

その事は周作も感じていて、哲が来たときに全てを察して思わずあんなことをしてしまったんだろう。
「自分が無理に連れてきたから・・・」と列車の中で言っていたし、人の良い周作にはそんな罪悪感もあったのだと思う。
でもすずさんは珍しくそれに怒ったね。それが原因で初めてしっかりとした夫婦喧嘩をした。それも最後はただの痴話喧嘩になってた。
でもそのお陰で2人の心が初めてオープンになった。だから結果的には周作のしでかしたことは吉となったわけだ。

しかし、その後に晴美が亡くなって、すずさんは右腕を失って、それまで朗らかだったすずさんもさすがに心が折れた。
これでせっかく開けた気持ちがまた閉じてしまった。
広島に帰ると決意して、でも直前でそれを翻したりして葛藤が激しかった。
そんな困難がありながらも最後のあの橋の上で「この世界の片隅にうちを見つけてくれてありがとう」と
周作に言ったあのとき、ようやく本当の意味で夫婦になれたんだなと感動して涙ぐんでしまった。



最後に哲を見かけたとき、声をかけなかったのはそれでもまだどこか少女のような気持ちを保っていたかったからではないか。
夫婦は夫婦、初恋は初恋、それはそれ、これはこれ、と別物の気持ちを持っていて、
甘酸っぱい初恋はいつまでも心に留めておきたかったのではないかと思う。
あの時ヘタに声をかけたら、哲の反応によってはすずの中でせっかく落ち着いたその気持ちのバランスが崩れてしまう。