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【山田尚子】聲の形 四言目 [無断転載禁止]©5ch.io

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0001見ろ!名無しがゴミのようだ! 転載ダメ©2ch.net (ワッチョイ ce44-mxSp)2016/08/25(木) 00:36:16.20ID:Bj2cTwn80
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※前スレ
【山田尚子】聲の形 一言目
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/animovie/1444632807/
【山田尚子】聲の形 二言目
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/animovie/1466746609/
【山田尚子】聲の形 三言目
http://tamae.2ch.net/test/read.cgi/animovie/1468742799/
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0309見ろ!名無しがゴミのようだ! (ワッチョイ 9cf9-bl7h)2016/08/27(土) 16:47:19.93ID:jWivKmTh0
 わたしがゲーセンに入ると、中は寒々としていて、人は六人ほどしか見えなかった
店内に鳴り響くゲームの音が悲しくさせたのかもしれない、客達はゲームをやめて腰をおろし、煙草を吹かしている

 わたしは立ちつくしていた。みんなは、学校に行ってしまっていない。行かないのは、わたしだけだった
あしたはタクシーに乗り、名古屋へ引っ越していくのだ。その最後の短い時間を割いて、わたしはこのゲーセンに母と来ているのだった

 寂しさが、わたしをふとひとりになりたい気持ちにさせた。「お袋、3rdを1クレジットだけ遊んでもいいか?」
「いいわ。でも、すぐもどるのよ。それから、対戦はしないようにね」

 わたしは走った。入り口で待っている母の姿が遠のいた。まもなくそれは小さなしみとなり、わたしはひとりぼっちになった
筐体の前に立つと、寂しさが心を満たした。人がそばにいた今では、ここへ来て人をさがし、ある名前を呼ぶことができなかったのだ。だが、今は――

 わたしは彼の名を呼んだ。何回も、何回も
「大今!大今!なあ、大今!」

 わたしは大今のことを思い出していた。去年、この店で侍に襲われた大今
やがて、パトカーと救急車のサイレンが鳴り響いた。大今のお婆ちゃんの叫び声。けれども大今は戻らなかった

「大今!」
 
 最後にもう一度わたしは彼を呼んだ。震えていた
それから、むかし大今と二人でいつもしたように、アーケードモードをプレイした
だが、それも半分だけだった。わたしは立ちあがった

「大今、もし聞こえてたら、ここへ来て、あとのステージをクリアするんだぜ」

 遠くにしみのように母が見える。わたしはそれにむかって歩き出した
動きを止めないCPUがPCの体力を削り、少しずつ少しずつ、それをゲームオーバーに近づけていった
わたしは黙ってゲーセンを出た
遠くで、大今の甲高い煽り文句がかすかに聞こえたように思ったが、それは風のいたずらだった
0310見ろ!名無しがゴミのようだ! (ワッチョイ 9cf9-bl7h)2016/08/27(土) 16:47:48.20ID:jWivKmTh0
 翌日、わたしはタクシーで出発した
タクシーの旅は物覚えを悪くさせ、昔話を遠くへ押しやってしまう
浅草のゲーセンも、ビルも、もんじゃ焼きも、寿司も、焼き肉も、喜びも、そして悲しみも、タクシーはみんな忘れさせる
そして、遙かうしろにひろがった昔話は、いつのまにか地平線のむこうに消えてしまうのだ

 わたしは心も体も大きく成長し、寸法のあわなくなった服を捨て去り、学校へ進学し、中退し、配信者となり、そして、ひとりの女性と出会った
しばらくの交際ののち、わたしたちは結婚した。そのときわたしは三十六で、浅草のことはほとんど忘れかけていた

 たわけ丼の提案で、二人の遅れに遅れたハネムーンはその方向にきまった
タクシーの旅は、昔話と同じように、二つの方向にはたらく。何年も昔に置きざりにしてきたものを、タクシーはつぎつぎと目の前にひろげるのだ

 ゲーセンにやってきたのは、その旅行も終わりに近付いたある日のことだった
早朝の四時だったが店は開いていた。客は誰もおらず、殆どの格ゲーは撤去されメダルゲームに代わっていた

 わたしは店内で一人、退屈そうにしている店長に話しかけた。「まだ3rdは置いてあるのですか?」
「あるよ。いくら時代が変わっても、格ゲーだけは残したかったんだ。それにしても、今日は珍しいな」
「どういうことですか?」私は尋ねた
「今から30分ほど前に、一人の少年が3rdをやりにきたんだ。それで、こんな時間に大丈夫かと聞いたら、今日だけは門が開いているから大丈夫だとかなんとか言ったんだよ」
 店長は続けた。「もう、かれこれ何十年も前になるかな。昔ここで、侍の辻斬り事件が起きたんだよ。さっき来た子に似た美少年が被害者で、可哀想になあ。それ以来、うちは客がぱったりなんだよ」

 わたしは息を殺し、凍りついたように立ちつくしていた。いつのまにか、小さな、おびえた、とるに足りぬ子供に返っていた
「ここにいろよ、たわけ丼」わたしはそう言った。なぜ言ったのかは、自分にも分からない
「でも、なぜ?」
「いいから、いてくれ――」

 それからしばらく後、わたしはひとりきりで店内を歩いていた。やがて立ちどまり、3rd筐体に目をとめた。少年が遊んだという筐体だ
その画面に、アーケードモードが半分だけ進んでいるのが見えた。むかし、大今とわたしが、半分半分遊んだように……

 わたしはそれを見つめた。筐体の椅子に腰掛けると、椅子から激臭が漂ってくることに気づいた
そのとき――わたしは知ったのだ

「残りは俺がクリアしてやるよ」わたしはそう言った

 のろのろと残りのステージをクリアすると、わたしは立ちあがり、踵を返して歩きだした
それがほかのすべてのものと同じように、時間の波に洗われて崩れてしまうのを見たくなかったのだ

 わたしはゲーセンを出た。そこには、何も知らぬたわけ丼が微笑を浮かべて待っていた
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