まずコンパスが登場する。彼は気がくるっていた。針のつけ根がゆるんでいた
ので完全な円は描けなかったが自分ではそれを完全な円だと信じこんでいた。
彼は両脚を屈伸できる中コンパスである。しかし彼が実際に両脚を屈伸させる
場合は極めて少い。いつも脚を伸ばしたままだ。そのためには大コンパスがい
るではないかというのが彼の理屈だったのだろう。その理屈を誰かが聞いた
わけではないに関らず誰もがコンパスのその理屈を悟っていた。何が悲しくて
自分がそのように猥褻ともいえる格好をしなくてはならないのかとコンパスは
思っているのであろうと皆が信じていた。なぜかというとそもそもそんな必要
はまったくないにかかわらずそのまったくない必要以上に彼は自分をスマート
に見せかける努力を怠らなかったからだ。そのスマートに見せかけようとする
行動の硬直性は彼の動作をかえって泥臭く見せた。スマートさに一部崩れた
態度と身装なりが必要だということをあきらかにコンパスは知らなかった。
さらにまた、そもそもなぜそのように見せかけるのかといえば彼は宇宙船の
乗組員全員から自分が差別されているのではないかと常に疑っていたからだ。