ゆりえにとって健児は、学校において唯一話ができる相手であり異性であったからこそ、ゆりえは健児に固執したのである。

これに対して、四条光恵は、つかみどころがない。三角関係モノであるとはいえ、
作中では光恵の健児に対する恋愛感情がほとんど描写されていないので、
どうして光恵が健児のことが好きなのが分からないのである。

なぜ、光恵は、最初、健児とゆりえの仲をとりもったのか。それは、「いい子だと思われたかった」「自分をよく見せたかった」からである。
だが、それからすぐに、光恵は、何らためらうことなく健児を寝取ってしまう。
自分が引き合わせたにもかかわらず、そのゆりえから健児を奪ったことについての葛藤は何ら描かれていない。

よくある「三角関係ラブコメ」のヒロインならば、ここで強い葛藤を覚えるはずである。
だが、光恵にはそのような葛藤がない。この点で、光恵というヒロインは、異彩を放っている。

このように、光恵は、内省というものを欠く人間であり、自分の行いをかえりみたりはしない。だからこそ
、妊娠が発覚して健児に捨てられたと感じた途端、今度は逆上して、あんなに「愛し合った」はずの健児を刺し殺すのである。

これに対して、ゆりえは、健児に対してだけは加害を向けることはなかった。逆上のあまり健児を刺し殺した光恵、
死体となってもなお健児を抱きしめるゆりえ――両者は対照的である。その場その場で感覚的にしか行動しない光恵と、
健児に対する変わらぬ愛を信じ続けるゆりえを比べれば、両者の健児に対する愛の深さには格段の差がある(それが良いことなのかは別として)。